プログラミングとは「ものを動かす」手段

『教養としてのプログラミング講座』などの著書がある天才プログラマーの清水亮氏にうかがった。《取材・構成=前田はるみ、写真撮影=長谷川博一

 

プログラミングとは「ものを動かす」手段

プログラミングに興味を持つ人が増えているようだ。ただ、「プログラミングとは何か」と聞かれて、明確に答えられる人は少ないのではないだろうか。「プログラミングとは、一言でいえば、自分以外のものを思い通りに動かす方法です」と話すのは、UEI代表取締役社長兼CEOの清水亮氏。その知識は、確かに仕事に役立つという。

「わかりやすい例で言えば、目覚まし時計の設定もプログラミングの一例です。明日、朝六時に目覚ましが鳴るようにプログラミングするなら、①朝六時に音を鳴らす(時間の設定)、②音量は中くらいで、水滴の音(音の設定)、③最初は小さく、だんだん音を大きくする(スヌーズ機能の設定)、④ボタンを押されたら音を止める(停止条件の設定)となります。このように、自分以外のものを思い通りに動かすために、手順を正確に記すのがプログミングです。
ビジネスの場面で言えば、ユーザーの気持ちを動かすための企画を立てるのも、組織全体をリーダーの意図通りに動かそうとするのもプログラミングだと言えます」

人工知能(AI)のプログラミングには40代が適している | THE21オンライン

 

プログラミングを学ぶと、「プログラムを書く」という実質的なスキルだけでなく、「実生活やビジネスのさまざまな場面でも応用が利く有意義なスキルが身につく」と話す。

「プログラミングでは、こちらが『期待する通り』ではなく、『プログラミングされた通り』に動きます。よって、あいまいな指示ではなく、正確な指示を出すことが重要になります。つまり、『どう指示を出せば思い通りに動いてくれるのか』を考えるのがプログラミングです。
プログラミングを学ぶとどんなスキルが身につくかと聞かれたら、私は次のように説明しています。1論理的な思考、2情報を適切に分類し、活用する方法、3最小の手間で正確な仕事をこなすための思考法、4知らない人と知恵を共有する方法、などが身につきます」

そこで気になるのは、40代からプログラミングを習得することは可能なのかということだ。

「40代になると、管理職や後輩を指導する立場になるので、自分以外の存在を意図通りに動かす方法を知らなければなりません。組織や仕事に関するさまざまな問題をプログラミング的な視点で捉え直すという意味で、教養として学ぶことには意義があると思っています。たとえば関連する本を読んでみたり、言語を一つ習得して簡単なプログラムを書いてみる、といったところでしょうか。
ただ、本格的なプログラミングのスキルを身につけることについては、私は否定的な意見です。プロになるためには複数の言語を使いこなす必要がありますし、今はライバルも多い。40代からプログラマーを目指すのは、囲碁や将棋のプロを目指すようなものです」

 

人工知能の分野なら四十代の経験が生きる

ただし、これから始めても十分勝負できるプログラミングの分野があるという。それが、人工知能のプログラミングである。

人工知能のプログラミングは、まだ競争相手が少ない未開拓の分野です。ビジネスとしてこれから始めてたとしても、成功する確率は高いと思います。
また、人工知能のプログラミングは、従来のものに比べて簡単に書けることも、40代がいまからでも勝負できる大きな理由です。従来は、ウェブサービスのプログラムを書くのでさえ、五つの言語を習得する必要がありました。しかし、コンピュータの進化形である人工知能には、必要なエッセンスはすでにプログラムされているので、Phytonというプログラミング言語だけで事足ります。学ぶことが少なくてすむので、学習能力に衰えを感じる四十代でもチャンスがあるというわけです」

従来のプログラミングが「コンピュータを動かす方法」であるのに対し、人工知能のプログラミングは「人工知能を育てる方法」だという。いわば子育てに似ており、「40代がこれまでに培ってきた知見や経験が役に立つ分野」と清水氏は話す。

人工知能に何をどう教えるかによって、人工知能が到達できる知性には大きな差が生まれます。これは笑い話ですが、肌を露出したセクシーな女性の写真だけを人工知能に見せて、『インターネットで探してこい』と指示すると、プロレスラーや相撲取りの写真を探してきます。つまり、『プロレスラーや相撲取りは、セクシーな女性には当てはまらない』ということを学習させるためには、正解例だけでなく、失敗例も見せる必要があるということです。
自分にとって当たり前の概念や価値観が通じない相手をどう教育するのか。これを考えるのが、人工知能のプログラミングの醍醐味と言えます。人工知能に関わる中で、『知性とは何か』『生きるとは何か』といった根本的な疑問にも向き合うことになるので、人生経験の豊富な四十代こそ学びが多い分野だと思います」

1万5千年に一度の革命は間近に迫っている

社会の人工知能化が進み、労働の大半が人工知能に取って替わられる時代がすぐそこまでやってきている。その時期を「五年以内」と清水氏は予測する。

「先日、『人工知能は人間を超えるか』というベストセラーの著者の東京大学の松尾豊先生にお話をうかがった際、『人工知能はインターネットの発明どころのインパクトではない。農耕革命と同じくらいのインパクトだ』とおっしゃっていました。つまり、1万5千年前に一度起こった農耕革命に匹敵する変化が、これから起きるということです。
現実に、名医以上に病気診断ができる人工知能が登場していますし、ロボットタクシーの実証実験も始まっています。今後、名シェフの技術を学習したロボットが厨房に立てば、全国均一でおいしい料理を提供するフードチェーンが誕生するかもしれません。
ただ、先にも触れたように、人工知能で何ができるかを考える人がまだ少ない状況です。だからこそ、40代の人でも成功できる可能性が高い分野と言えるでしょう」